前回のラスト、里見忠義に殉じた「8人の家臣」が、八犬伝の八犬士のモデルといわれている——という話に、うみこは大興奮でした。いよいよ連載のクライマックス、『南総里見八犬伝』のお話です。
「うみこと歩く館山城」第6回のテーマは、「物語と史実はどう違う?」。館山城のロマンチックなイメージをつくった大ベストセラーと、本物の里見氏の関係をひもときます。
うみこ
おじさん、前回の「8人の家臣が八犬士のモデル」って話、気になって気になって! そもそも『南総里見八犬伝』って、どんなお話なんですか?
タテヤマおじさん
江戸時代後期の、超がつく大ベストセラーだよ。作者は曲亭馬琴。滝沢馬琴とも呼ばれる人だ。文化11年、1814年に出はじめて、完結までなんと28年。全98巻106冊っていう、とんでもない長編なんだ。
うみこ
28年!? 98巻!? 長期連載のマンガどころじゃないですね…! 一生かけて書いたみたいな…。
タテヤマおじさん
まさにそうだ。読本(よみほん)っていう、絵も入った長編小説でな。舞台は室町時代の後期。物語の核はこうだ。安房の里見家の姫・伏姫と、八房という神様の犬の不思議な因縁から、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が浮かぶ八つの玉が、関東各地に飛び散るんだ。
うみこ
玉が飛び散る! すごいファンタジーなんですね。その玉が、八犬士につながるんですか?
タテヤマおじさん
そうだ。その玉を持って生まれた八人の若者が「八犬士」。みんな名字に「犬」の字が入ってる。関八州——関東一帯だな——のあちこちで生まれた八犬士が、めぐりめぐって里見家のもとに集まっていく。悪をくじき、善を助ける、勧善懲悪の大ロマンだよ。
うみこ
わー、かっこいい…! でもおじさん、これって史実なんですか? 里見家、ばっちり出てきますよね?
タテヤマおじさん
そこが今日いちばん大事なところだ。八犬伝はあくまで「稗史(はいし)」、つまりフィクションだ。史実の里見氏とは違う。物語に安房の里見家は出てくるし、馬琴は歴史をよく調べたうえで書いている。でもな、伏姫も、八房も、八犬士も、ぜんぶ馬琴が生み出した物語の登場人物なんだよ。
うみこ
じゃあ、前回の「忠義さんに殉じた8人の家臣」は…?
タテヤマおじさん
忠義に殉じた8人の家臣が、八犬士の発想のもとになった——といわれている。あくまで一つの説だがな。確かなのは、史実の里見氏という存在が、馬琴の物語の土台になっているってことだ。史実の里見氏の終わりが、200年も経ってから物語として甦った。そう考えると、ロマンがあるだろう。
うみこ
ある…! 史実とフィクションが、細い糸でつながってる感じです。でも、じゃあどうして館山城が「八犬伝博物館」なんですか? 物語そのもののお城ってわけじゃないのに。
タテヤマおじさん
いい疑問だ。物語の中で里見家の本拠として描かれるのが、まさにこの安房・館山のあたりなんだ。だから、史実の里見氏の城であり、物語の里見家ゆかりの地でもある館山城に、八犬伝の世界を伝える博物館が置かれた。第1回でうみこが登った、あの天守風の建物——あの中身が八犬伝博物館だよ。
うみこ
あっ、いちばん最初に登ったお城! 模擬天守の中身が八犬伝博物館! ぜんぶつながった…!
タテヤマおじさん
そういうことだ。実をいうとな、今の人が「館山城」と聞いて思い浮かべるロマンチックなイメージの大半は、この八犬伝が育てたものなんだよ。史実の館山城は24年で消えた。でも物語の力で、里見と館山の名は語り継がれた。史実も物語も、どっちもまぎれもなく「館山城」なんだ。
📜 史実メモ:『南総里見八犬伝』と史実の里見氏
『南総里見八犬伝』は、曲亭馬琴(滝沢馬琴)による江戸後期の読本(長編伝奇小説)です。文化11年(1814年)に刊行が始まり、28年をかけて天保13年(1842年)に完結。全98巻106冊に及びます。室町時代後期を舞台に、安房の里見家の姫・伏姫と神犬・八房の因縁から飛び散った「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の玉を持つ八犬士が活躍する、勧善懲悪の物語です。ただしこれは「稗史」=フィクションであり、史実の里見氏とは異なります。伏姫・八房・八犬士は馬琴の創作です。現在、城山公園の模擬天守(昭和57年/1982年開館)が「八犬伝博物館」として、八犬伝の版本や錦絵などを展示しています。
八犬伝は史実そのものではありません。けれど、史実の里見氏という土台があったからこそ、この壮大な物語が生まれました。そして物語が広く愛されたことで、里見氏と館山城の名は、城が消えたあとも語り継がれていきます。史実と物語、その両方が重なって、今わたしたちが知る「館山城」のイメージはできあがっているのです。次回は、ここまでの歴史を踏まえて城山公園をあらためて歩きます。
今回わかったこと
- 『南総里見八犬伝』は曲亭馬琴の読本。文化11年(1814年)〜天保13年(1842年)の28年、全98巻106冊の大長編
- 安房の里見家の姫・伏姫と神犬・八房の因縁から、仁義礼智忠信孝悌の玉を持つ八犬士が活躍する勧善懲悪の物語
- これはフィクション(稗史)で史実の里見氏とは異なる。伏姫・八房・八犬士は馬琴の創作。忠義に殉じた8家臣が八犬士の発想のもとという説もある
- 物語が里見家の地として描いた館山に八犬伝博物館(模擬天守)が置かれ、館山城のイメージは八犬伝に育てられた
📚 連載「うみこと歩く館山城」の全体像・各回の目次は、まとめ記事「館山城の歴史まとめ|里見氏最後の居城と八犬伝の舞台を歩く」からどうぞ。
次回「うみこと歩く館山城⑦」は、ここまでの歴史を踏まえて、城山公園をあらためて歩く回。山頂の眺め、城跡としての見方、博物館の楽しみ方——歴史散歩のポイントを案内します。お楽しみに!